文章力のための研修で、「おとぎ話を新聞記事風に仕立てよう!」という演習をするときがある。
やり方はこうだ。4,5人のグループに分かれ、まずどんなおとぎ話をネタにするか、あらすじを確認しながら決める。それから「誰を対象として、その人に何を感じてほしいのか」「何をハイライトにして記事を書くか」をそれぞれ明確にする。そのうえで解散、各自記事を書き始めるという演習だ。
「シンデレラってどんな筋やったっけ?」「えーと、王子様とダンスをしてたら日付が変わって魔法が解けそうになって、逃げている時にガラスの靴ぬげて…」「それからなんか『リンゴ』がでてくるんやったやんね?」「いや、ちょっとちゃうやろう…」などとにぎやかにしゃべっている。ある意味、リラックスタイムなので、よほど脱線しない限り様子を見守ることにしている。
騒がしすぎるのも困りものだが、もっと困るのは沈黙が支配しているグループだ。どうしたの、と聞くと、たいてい「あんまりおとぎ話知らなくて」とか「○○についてしゃべってるんですけど、どんな話だったか…」という答えが返ってくる。
後者の場合、思い出せないあらすじ「○○」のナンバーワンは間違いなく「きんたろう」だ。
「クマにまたがっている」「足柄山にいた」「『金』の字が書いてある赤いよだれかけ(本当は腹掛け)をしてる」などの断片的なイメージはある。が、ストーリーが見えない。
相撲のテクニックや乗馬のスキルを、クマを相手に「はいしどうどう、残った♪」などと安易に身に付けることができるとは之はいかに。また、幼児のくせに「まさかり(斧)」を常時携帯していたようだが、一体それを何に使っていたのか?
そして、最大の?はオチである。身に付いた数々の武芸を活かし、桃太郎のように、最後は金銀さんごや綾錦などの財宝を手中に収めたのか。あるいは、マッチョさをアピールし、「わらしべ長者」にような逆玉に乗ることができたのだろうか。
そのわりには、各自治体からご当地キャラとしてとりあげられている(私が知っているだけで4か所ある)のも不思議だ。担当職員に「何をした人なんですか?」と聞いたら「さあ」という答えが返ってきた。
本当によくわからない。非常に謎めいた童子である。