「ね」のパワー

数年前のことである。とある大学で、私と留学生との英語のやりとりを聞いていた別の留学生が、こちらに向き直ってキッパリこう言った。「田原先生は、英語がお上手です!」周囲は爆笑、本人はきょとんとしている。

 

日本語のネイティブスピーカーであれば、このやりとりがなんだか感覚的にヘンだという意見に賛成してもらえるだろう。でも一体、どこがヘンなのだろう?せっかく「ほめた」のに?

 

ところがこれがまずかったのだ。日本語では、年齢(立場)が下の者が、上の人間を褒めることはタブーなのだ。ほめること=評価することだからだ。つまり、オッケーを与えることもダメ出しと同様、相手を評価する行為なので等しく「失礼」にあたる。

 

「じゃあどうすりゃいいのか?目下の者は永久に目上をほめることができないのか」とふと考えてしまったあなた。ちょっといい方を変えるだけクリアできる。

 

最後に「ね」を付け加えるのだ。

 

「田原先生、英語がお上手ですね」ーこれだと、相手に対する評価ではなく、自分が思わず発した「感想」と見なされ、タブーが和らぐ。たったひと文字で文全体のニュアンスが変わってしまう。うーむ、日本語って難しい。