うう~久しぶりの雨、と思えば2日間、断続的に土砂降りが続いた。ほとんどスコール、ここは熱帯雨林か。まさに‘When it rains, it pours.(雨降れば土砂降り)’だ。村雨(むらさめ=群れた雨、つまり強く降ってすぐ止む雨)なんて雅(みやび)な言葉は似合わない。
雅といえば、うちの事務所のすぐ近くに「村雨町(神戸市須磨区)」という地名がある。ここには在原行平(ありわらのゆきひら)にちなんだ物語が残されている。みなさん高校時代に苦しめられた古文『伊勢物語』で「昔、男ありけり」として登場する色男、在原業平(ありわらのなりひら)の兄ちゃんだ。
この行平が京より左遷されたとき、立ち寄った須磨の海岸で美しい海女(あま)の姉妹をナンパした。名は村雨と松風。2人は深く愛されたが、やがて行平は因幡国(今の鳥取県東部)に移ることになった。
その時、別れを惜しんで詠んだといわれるのが「立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる 待つとし聞かば いま帰り来む」。百人一首にも収められている有名な歌である。その後、松風・村雨姉妹は仏門に入り、行平をしのびながら庵を結び余生を送ったという。あまちゃんらを尼さんにしてしまうとは罪深い男だが、このあたりは謡曲(能)『松風』に名高い。
おおぜいの海水浴客でにぎわった須磨海岸も昨日でクローズした。今年の夏も昔と変わらず、ドラマチックな恋が生まれてははかなく消えていったのだろうか。今では閑散とした砂浜に、海の家の看板が雨に打たれているのみである。