5年ほど前、脳科学者の茂木健一郎氏らによる上記のタイトルの本(宝島社新書)が出た。その時は「なんでもかんでも『力』をつけりゃいいってもんじゃないだろう」と歯牙にもかけなかったが、最近はこれがとても気に入っている。といっても雑談になんちゃってエビデンスを添えた、妄言力ゆたかなこの本ではない。「妄想力」という言葉そのものである。
先日、少子化の中で、生徒数・業績ともに飛躍的に伸ばしている奈良県の塾の社長の話をうかがう機会があった。そこであったのが力を入れている社員教育のひとつが「妄想力」だというのだ。確かに、従来の「ビジョン」だの「ポリシー」だといった言葉は、はなから周囲へのまきこみ力を要求されている感じで、ハードルが高い。
それに対し、「妄想=物思いにふけること」はだれでもできる。一人っきりでも可能、というかそもそも一人が出発点である。こんなことあればいいな、こんなになればいいな、と以前のドラエもん主題歌のような妄想にふけっている段階が「妄想」。手軽でよろしい。
この妄想力がないとどうなるか。目の前の仕事をとりあえず片づけることが目標になってしまう。営業パーソンならノルマのクリア、モノづくりなら納期に品物をとにかく納める、そして経営者なら数値の達成としばしの経営の安定。そこに展望はない。そして、展望のないところにはおそらく未来もない。「妄想力」はすべての働く人に求められるチカラではないか。