振り返れば、子どもの頃からブラウン管上(古いぞ)の偶像にはトキめかない体質であった。アイドル冷感症である。
小学校時代、一世を風靡した昭和の御三家、橋幸夫、舟木一夫…いや違う。郷ひろみ、野口五郎、西城秀樹を一顧だにせず、中学時代には『たのきんトリオ』の田原俊彦にちなんでついた「としちゃん」のあだ名に「誰それ?」と返した。長じて、キムタクといえば「ああ、広島の選手か。グラウンドで命を落とすとは…」と反応したこともある。しょせんは画面上、二次元の偶像どもである、とシニカルに構えていた。
そんな低体温女子が唯一、ハマったのがДмитрий Хворостовскийであった。ホンの数年前のことである。あだ名は、Siberian Tiger、Elvis Presley of Opera Music。声良し、顔良し、姿良し。堂々たる体躯で銀髪を輝かせながら歌う姿に見ほれない女はいないだろう。一目だけでも実物を見たい、声を聴きたい。ところが、2年前のガンを発病し、舞台から遠ざかってしまった。
以来、変わっていく外見を痛ましい思いで見守りながら、来日を心待ちにしていた。だがそんな思いは11月22日に打ち砕かれてしまった。
享年55歳。私にとって永遠のアイドルになってしまった。