日本語の奥深さを上から目線でお伝えする、「知ったかぶりの言語学講座」。
第1回目は、一字違いでエライ違い、がテーマである。題材は、ちょっと旬を過ぎた例の国外脱出騒ぎ。といっても「ビーン」か「〇ーン」かという固有名詞ではない。あくまでも語と語をつなぐ「助詞」に着目する。
さて、クイズを出してみたい。
中身不明の楽器ケースに貼るステッカー用に、キャッチコピーを考えるとしよう。×に入る言葉としては、「が」「は」、どちらが自然だろうか。
(1)ビーン「×」入っています。
この場合「が」が適当だ。「は」、だと「ビーン以外に何かメインが入っていることを期待したでしょ、あなた」というニュアンスが出てしまう。
翻って、これはどうだろう。
(2)ビーン「×」入っていません。
ちょっと悩んだ方もいるかもしれないが、「は」ではないだろうか。
この場合の「が」「は」の決定的な差は何か。
実は、聞き手に新情報を提供する場合は、「が」を使うことが原則である。昔ばなしが「昔々、おじいさんとおばあさんが」と必ず「が」ではじまるのと同じリクツだ。
ではなぜ(2)は、「は」の方がなじむのか。「ビーンは入っていない」は、新情報ではないのか? 確かに、そうかもしれない。
楽器ケースには必ず何か(普通は楽器)入っていることが前提になっているので「(ちゃんと楽器が入っています。)しかしビーンは入っていません」の前半のカッコの文が略されているというわけだ。つまり、聞き手が前提という情報を持つから、新情報ではない、というリクツか(自信がないが)。
もうひとつは、新情報云々(うんぬん)とは別に、文が動詞の否定形で終わっているからである。形容詞(楽しい、悲しいなど)や名詞(男性だ、レバノン人だ)、また動詞の否定形など「状態」を表す場合は、通常「は」を使う。
これを一瞬にして使い分ける日本語ネイティブってすごい。英米語、仏語、アラビア語、を自在に操る〇ーン氏が、在日約20年間、公式の場ではちっとも日本語を使わなかったのも、無理はない。