コレラ予防接種の思ひ出

平成もヒトケタ台の今は昔。アフリカ旅行を企てたとき、コレラの予防注射をしたことがある。

 

アフリカ大陸への渡航には、黄熱病とコレラの予防接種が必須であった。黄熱病といえば、子どもの頃『ポプラ社 子どもの伝記』で読んだあの野口英世。その命を奪った、おそろしい病である 。

 

一方で、コレラは私にとっては、なじみのある病名だった。大学時代、夏休み明けの学食で、こんな掲示板をよく見かけた。「××語科の●●さんに接触した人、すぐさま保健センターに申し出てください!!コレラ感染の可能性があります」。今となれば、個人情報への配慮のカケラもない注意書きである。

 

さて、接種パンフによると、黄熱は生ワクチンで、コレラは不活性ワクチンとあった。生ワクチンとは生きたままの菌を体に植え付けることだ。なんと恐ろしげなひびきであろうか。おまけに最低4週間あけなければ2回目の接種ができない。コレラも2回以上の接種が求められるが、1週間程度の間隔でよい。そこで、軽・コレラ→重・黄熱の順でワクチンを接種することになった。

 

コレラ接種の初日、隣県の果てにある接種センターにたどり着いた。ベッドがある広い診療室でかたち通りの問診を受けた後、医者はまくり上げた私の左腕のなかほどにズブリと針を刺した。とたんに「今、菌が静脈に侵入、体の中心に向かっております」という感覚が生じ、菌が進むたびにその部分が、重く、だるくなっていくように感じた。針が抜かれたときには、腕の付け根まで違和感が広がり、腕を持ち上げるのもおっくうな状態であった。

 

帰宅後さらに状態は悪化し、夜になると腕は太ももぐらいの大きさまで腫れあがった。触れると飛び上がるほど痛い。寝るときは体の右側を下にしなければならない。熱も37.5度近くまで上がった。接種でこれとは、実際にかかったらどんな具合だろう、と布団の中のぼんやりした頭で考えた。

 

熱は翌日にはひいたが、左腕の腫れとしびれは数日間残った。経験者に聞くと、コレラ接種で何ともない人は少数派で、38度を越える発熱はザラ、なかには脱水症状を起こして救急搬送される人もいるそうだ。

 

なんとかやり過ごし、しばらくして戦々恐々のコレラ2回目を接種。続いて、ラスボス黄熱を接種したが、とんと記憶はない。おそらく、大過なくすんだのだろう。

 

今月末から、民間人向けのコロナ接種が日本でスタートする。史上初の壮大な人体実験。強烈だとされる副反応は、あのコレラと比べてましなのか。医療従事者でもない高齢者でもないタハラが参加するのは、まだまだ先のことである。