「独逸国領事勤方ファバー氏に邂逅し忽抜刀追逐して兇殺せし段甚以不届之儀に付破廉恥甚を以て〈略〉斬罪申付候事」。おお、明治7年9月の太政官達第120号として発せられた法令(死刑執行命令書)に「ハレンチ(破廉恥)」が登場している。
辞書によると、ハレンチとは「廉恥(恥を知る)心を破る」ということ。人の道に外れた行い、という意味らしい。しかも、現代においても「ハレンチ罪」は立派な法律用語のようだ。『道義に反する動機・原因によりなされる犯罪。殺人・詐欺・窃盗・放火・贈収賄など』という定義まである。
それにしても冒頭の執行書、人殺し自体が道に外れた行いであるのにもかからわず、わざわざ「ハレンチ」などと書き込んだ意図は何か。ふと性的な殺人動機が頭をよぎるのは、70年代の漫画『ハレンチ学園』の影響が大だろう。
ただし、最新の在留外国人向け日本語手引書のただし書きを見ると「ハレンチはあまり使われない単語」だそうだ。言葉は世につれ変わっていく。