私の恐怖体験 ヨサク越え

そのとき、ちょうど16時ごろだったか。高知県西部の梼原町を出て約1時間、対向車をなんとかかわしながら、40キロほどの山道を走破、国道439号線にたどり着いた。

 

旧・大正町の道の駅に立ち寄り、買ったトマトでほっとひと息。やれやれ、文字通り峠は越えた、目的地・四万十市の中心地まで、この道を走れば40キロ弱。日暮れまでにはつけるだろう。

 

ところが、ナビにしたがって再スタートしたとたん、道は山にわけいり、険しく、細くなってきた。まずセンターラインが消え、次にガードレールが消え、そしてアスファルトが消えた。荒れた路面をおおう木の葉のうえに、うっすらタイヤ跡があるのみだ。

 

おまけに、山肌より染み出した水が、道路を横切り、反対側の路肩からポトポトと垂れている。こわごわのぞくと、はるか下に川が見えた。道を間違えて、異世界にでも迷い込んだか?引き返そう。

 

決死の覚悟で下り道をバックし、大木の根っこに乗り上げギリギリUターン。道の駅の手前までもどってルートを再検索した。

 

ところが、ナビ導師もグーグル先生も「先ほどの道をすすむしかないぞよ」とのご託宣だった。あれが国道?別の道はないのか?ピンチアウトすると、なぜか画面がとんでしまう。う回路がわからない。紙の地図をもってこなかったことが悔やまれた。

 

土地勘がないうえに、もともと、大変な方向音痴である。いたずらに道を探してとんでもないところで立ち往生するより、日暮れまでに、この狭路を一気に乗り切った方がよかろう、そう腹をくくった。

 

そこから、うっそうとした原生林にかこまれた夕暮れどきの約一時間。ライトも追いつかないクネクネ道を右に左に忙しくハンドルを切り、鉄板をわたしただけの橋(といえるかどうか)をいくつかこえ、ときどき濡れ落ち葉に後ろタイヤをとられながら、地崩れの箇所は気持ちだけよけつつ、走りとおした。

 

無事下山してから、5分ぐらいは放心状態だった。対向車との離合がほぼなかったのが、不幸中の幸いだった。

 

あとで調べると、そこは四国、いや全国最恐の国道のひとつ「酷道439号」だった。しかも通った区間は、道幅2.5m以下の通称「ヨサク(439)越え」。数年前、NHKがここを放送で取り上げている。怖いもの見たさで他府県ナンバーが殺到したために、レスキュー隊が出動しまくり地元は大迷惑したらしい。

 

学んだこと:

ドライブ中に、長い髪をたらした女が突然バックミラーに映ったり、フロントガラスに血の手形をベッタリつけたとしても、怖がる必要は全くない。ガードレールのない路肩から転げ落ちる思いをするよりはるかにマシである。(でも不審者なら110番、交通事故なら119番にすぐ通報のこと)

 

NHK ドキュメント72時間 「ゆきゆきて酷道439号線」