苦労話とエントリーシート

海外留学中の学生と、留学帰りの就活生との自己紹介文の添削を同時期に頼まれ、仰天したことがある。双方ともがユニーク(オリジナリティが高いというか)な経歴の持ち主にもかかわらず、語り口がほぼいっしょだったからだ。

 

「私は苦境に耐える力があります。●●国に留学しようと考えた時、ほとんど●●語ができませんでした。これではいけないとおもい、図書館にこもって一日8時間以上勉強しました。そのかいあって、大学入学に必要な語学のスコアを取得することができました」

 

違っているのは、国名だけだった。二人とも、なぜ同じ文章になったのか?聞くと、双方とも、就活サイトを参考にしたとのことだった

 

ここで問題。そもそもエントリーシートはなんのために読んでもらうんだったっけ?

 

そう、一次選抜されるための自己PRだ。凡百(ぼんぴゃく=よくある)の苦労話では採用担当の目にとまらない。企業側が知りたいのはあなたがどんな特長を持った人かということ。つまり「あなたがどんな人か」である。

  

おっと「『私は苦境に耐える力があります』って書いてるやんか!」という声が聞こえたぞ。そうじゃない、PRすべきなのは「あなたがどんな夢を実現するためなら、苦境に耐える人なのか」という’価値観’だ。

 

上の例でもっとくわしく言おう。「私」は、何かやりたいことがあって留学したはず。それは何か?留学によって夢は果たされたのか。その成果をふまえ、今、何をしたいと考えているのか。

 

たいせつなのは、苦労のプロセスではない。くりかえすようだが、そうした行動にあらわれた、今のあなたを形作る考え方や信条などだ。語学力PRネタのエントリーシートは、言葉は悪いが何千何百と腐るほどある。でも「なぜそこまでがんばったのか」は個人個人によってちがうはずだ。そこが価値観であり、その人ならではの個性が現れる。

 

ひとつアドバイス。エントリーシートを書くときにこそ、金子みすゞ『みんなちがって みんないい』を、おもいだしてほしい。マニュアルの形をなぞって、安心してはいけない。経験談を使って、自分らしさを浮き彫りにしなきゃならないんだよ。