タトゥー文化と「反社」

「男子は大小となく、皆鯨面文身す」ー日本史Bでおなじみの『魏志倭人伝』の冒頭である。

 

鯨面とは顔面に、文身とは身体全体に刺青があることだ。鯨面は、当時の漢民族の文化では「反社」であった証であった。書き手にとってはかなりの衝撃だったのだろう。やたらこの部分の記述が長い。

 

そして現在。刺青はtatooになり、ファッションとして世界的に定着しつつある。ヨーロッパでは約20%の人が刺青持ちとのデータがあるが、実感値として若者世代では5割を超える印象だ。価格は20センチ平方で約2万円程度。消す価格はその2倍ほどらしい。

 

痛い思いをして高い金を取られる不条理なファッションである。しかも、有史以来の刺青文化を持つ日本人からすれば、美しくない。

 

まず色数がほぼ青一択。他の色はあっても、鮮やかさに欠ける。線が真っ直ぐでない。ハートだの渦巻きなどと意匠が単調。控えめに言って、子どもの落書きレベルである。

 

大昔、保険の契約を担当していたとき、見事な彫り物を見たことがある(刺青があると保険契約に制限がかかる場合があるので、担当者は確認しないといけない)。地味なおじさんが上着を取ると、背中いっぱいの般若の面が躍り出た。

 

その面(おもて)の黄味の鮮やかさ、口辺に引かれた茜色の艶っぽさ、あしらわれた蜘蛛の巣の精緻さよ。おじさんは口ごもりながら、若いときヤンチャをしまして、とそそくさと袖を通した。あの一瞬の般若は、今も私の目に焼き付いて消えない。

 

おそらく、高い技巧を要する彫り物だっただろう。こうした技術が途絶えるのはもったいなすぎる。

 

そこで提案である。大阪市の夢洲に開業する予定のIR施設に「彫り物承ります」コーナーを設置してはどうか。そして、そこに壺振り用の飯場を併設するのだ。カジノなどより、よほど外国人観光客に日本文化を堪能してもらえる場になると思うのだが、いかがなものか。

 

ただし、刺青を理由に不採用になるほどの大阪市である。職員がそこで働くのは、もちろん御法度であるだろうけど。