てるてるハート

喜怒哀楽、人間が娯楽に求めるものはさまざまだ。が、特に夏場は、無性に怖い話が恋しくなる時がある。

 

怪談や奇譚は数々あれど、ゾクゾク系の怖さでは、古典は米国の作家エドガー・アラン・ポーに軍配をあげたい。着眼のとっぴさとは裏腹に、全てが伏線回収に向かって編まれた緻密な構成力。イタコに降霊させて、次作の構想を問い詰めてみたい作家である。

 

そしてこのたびは、短編「The Tell-Tale Heart(テルテルハート)」を読み返したくなった。「私は、確かに、確かに神経症ですが・・・気がふれているわけではないのです」。正気を証明するための、狂気に満ちた完全犯罪のひとり語り。そのなかで精神の均衡を崩していく「私」。夏の夜の暑気ばらいにうってつけである。

 

だが、いくら本棚を探しても見当たらない。仕方ない、19世紀の作家だからインターネットで翻訳が無料公開されているはずだ。原題をカタカナにして検索すると、続々と「てるてる・ハート」が出てくる。よっしゃ、これだ。

 

ところがリンク先は、某市の精神福祉相談センターだった。「トレーニングを積んだ専門相談員に、ストレスの多い今の状況をお話しください。誰かにお話しするだけで、心が軽くなります」。

 

うーむ、「てるてる・ハート」の相談員に電話をかけ「The Tell-Tale Heart(テルテルハート)」を読み上げ、反応をみたい衝動に駆られるではないか。(注:そんな迷惑なことは決してしません)。それにしても、精神を病んだ主人公の独白と、心の相談センターの名前が同じとは。このネーミングは故意なのか、たまたまなのか?